串良川流域散策(最終回)
前回の続きは鹿屋市民族館のすぐ上にある「井手橋」から始まる。
写したのは井出橋の上からだが、写っているのは「新井手橋」だ。県道71号(垂水ー南之郷線)の改良工事でショートカット工事が随所で行われ、くねくね道が直線あるいはなだらかなカーブに生まれ変わった。
橋のあたりは「鶴地峡」(勝手に命名)で、その向こうの「鶴集落」は、地峡がまだ開削されていない時代は沼か湖だったと思われる。
「鶴地峡」を過ぎて間もなく右へ降りる道があり、下っていくとすぐに「鶴橋」がある。
そこから見た上流は何にも変えがたい故郷の風景だ。川がそう深くえぐれていないのがここの特徴だろう。これなら幼児でも水遊びが出来そうだ。
渡った先の鶴集落は、おそらく十数戸、交通の便は悪いとはいえないのだが、小学校、中学校の遠いことを考えると、ここに住み続けようという若者がいないだろうことは察しがつく。
鶴地区からおよそ600㍍で「瀬戸野公民館」を見る。右手から川へ降りる道があった。川には井堰がある。この瀬戸野地区と鶴地区へ供給する用水の取り入れ口だろうが、右手には魚道が見える。
魚道とは川を堰き止めることで上流に上ることのできなくなった魚たちのための「バイパス」である。「環境に配慮した優しい土木工事」のシンボルともいえる。こんな山奥でも取り入れられているとは、ちょっと感激する。
瀬戸野橋を渡っていくと、右手にオレンジ色の屋根を持つこの辺には似つかわしくない御殿のような家が目に入った。近づいてみると家の下には養豚場らしきものがあった。そうか「養豚御殿」だったか・・・。
黒豚ブームが久しく続いているので、今、鹿児島の養豚界は好景気なのだ。たしかに、こんなに自然あふれる所で育った豚は健康だろうし、安全だろう。消費者にこの風景を見せたら驚くだろう、喜ぶだろう。
瀬戸野橋を渡った突き当りを左へ200㍍で、赤い鳥居が目に入る。「霧島神社」だ。串良川中流の下中地区に鎮座する霧島神社の分社だと思うが、鳥居をくぐって登って行くと、コンクリート製の朱塗りの社殿がなかなか立派で、過疎地によくある草に埋もれたというような雰囲気は全くない。
よく手入れされており、階段の途中にでんと構える巨石がなにやらいわくありそうなのだが、これといって説明板のようなものは無かった。
瀬戸野からは急に高度を稼ぐようになり、川もいよいよ渓谷となるので、直接、串良川源流に向かうことにした。
瀬戸野から約3キロで峠に差し掛かる。そこはそのまま下れば垂水、左は大野小・中学校。右手がこれから行く源流のあるという「鹿児島大学農学部付属高隈演習林」だ(写真は峠を行き過ぎ、垂水側から写したもの)。
右折して200㍍足らずで演習林事務所入口だ(道路の反対側にはジャパンファーム垂水工場の正門がある。ブロイラー養鶏では全国屈指の規模である)。中に入って行き、事務所に事情を言って源流に入る許可を得る。気さくにOKを出してもらい、演習林の地図まで頂いた。
事務所から300㍍強で演習林の入口だ。「寄宿舎林道」という普通の林道ではあり得ない名が付けられている。約700㍍で分岐に差し掛かると、そのいわれが解けた。
それはこの演習林が開設されて間もない頃からあったという「旧寄宿舎跡地」に至る道だったのだ。演習林が開設されたのは明治42(1909)年というから古い話である。鹿児島大学農学部がまだ「鹿児島高等農林学校」と言われていた時代だ。初代校長は玉利喜造農学博士。かなりの奇人だったらしい。
入口から約1,5キロで源水地があった。「冷水谷」という名の湧水地だ。
比高で10mくらいの、そう高くないシラスの崖の下から、水が滴り落ちていた。その名の通り冷たい水だ。よく学校の生徒たちが学習に来る所らしい。案内板に彼等の集合写真が刷り込まれていた。
だが本当の源頭はまだこの上にある。距離にして300㍍くらいだろうか。
演習林の中に屋久杉があるとは思わなかった。
「ヤクスギ巨樹林」の案内板に誘われていってみると、真っ直ぐに立つ太い幹が現れてきた。上を見ても頂上が分からないほどだ。
しばらく行くと案内板が立ち、その傍にひときわ大きな杉が立っている。説明によると展示林の中では最大の「直径101センチ、高さ37メートル」という巨木だった。演習林が開設されて間もなく植えられたと言うから、樹齢90年余り、屋久杉では「小杉」だが、堂々たるもの。この展示林には屋久杉が134本あるという。
演習林をでたあと、高峠のランドマークの美しい円錐形の山(722m)に登ってみた。
高峠には今回で4回来ているが、高峠公園のツツジ(春)やコスモス(秋)を目当てに来ただけで、ついぞ登ったことはなかった。気温28度と下界よりは3~4度低いものの、登り出した途端に汗が噴き出してくる。
歩くこと20分、ようやく頂上らしいと思ったら、そこからがいけない。何と階段が延々と続いている。上を見ないようにしながら、足元の階段の数を一歩一歩数えながら登る。苦しさの気が紛れる。数え終わった所が山頂だ(何と、303段もあった)。結局30分かかってしまった。
360度のパノラマの景色、と言いたいところだが、あいにく雲が山々の中腹以上を覆っていた。頂上には、眺望の先にある県内の主なスポットを真鍮製の円盤の上に刻んでいたが、佐多岬が一番遠くて60キロ、霧島は43キロ、開聞岳が45キロ、そして鹿児島市は意外に近く20キロだという。
桜島のくっきりした写真が取れるかも、と期待していたが残念ながら雲の中だった。 この山はれっきとした独立峰だが名前が無い。登山口にも「登山道」とあるだけで「○○山登山口」とは書いていない。
マアいいかと登ってみたが、山頂にも山名を表したものはない。下山後に演習林事務所の先生に問い合わせてみた。すると「高峠って呼んでますよ」との答。―では地元では何と言っているんですか?「やはり、高峠ですよ」―!??山が峠なんですか?「そうですねえ・・・」 ・・・そうらしい、地図でもこの山を高峠としてあった。大隅の不思議な地名発見か・・・。
マップ(赤い十字は県道71号最高点。右に折れると鹿大演習林入口)
鹿屋市のスクロール地図はこちら
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