前川流域散策(志布志市)―その一
前川は志布志市志布志町の旧市街地の中心部を流れる川で、20キロに満たない小河川だが、かって志布志が海運で栄えていた室町期から江戸初期の頃の、俗にいう「志布志千軒」の栄華を担っていた。
写真は前川の当時の海岸線と思われるところに架かった「権現橋」。国道が通り、左手は鹿屋方面、右手は宮崎県の串間市方面に至る。
「権現」という名称の由来はよく分からない。権現と言うからには近くに何らかの神社があったものだろう。右手に渡り、信号を左に入った所に石の祠があるが、そこにかっては神社らしきものがあった可能性が強い。
権現橋の200㍍ほどの下流にはJR日南線の鉄橋が架かる。国分駅から志布志駅までを結んでいた国鉄・大隅線が昭和62年に廃止になったあとも、志布志から串間を通り、日南・青島を通過して宮崎駅まで、太平洋を眺められる最南端の鉄道路線だ。
ここからさらに河口に向かうと、左手は埋立地で、今はそこに延々とコンテナヤードが続く。
志布志港は国際港に認定されていて、アジア各地からあるいはアメリカからのコンテナ入りの輸入物資が所狭しと並べられている。
権現橋から川上に向かうと、150㍍くらいの所に「志布志橋」があり、川筋の奥は右手に「宝満寺」の跡がある。
また、左のビルの奥には国指定重要文化財に指定された「志布志城」のうちの「内城」がある(小高い丘がそれ)。この内城こそが「本丸」を備えた最も重要な城址に他ならない。ほぼゼロメートルのこのあたりから見ると比高で50㍍はあるので、かなり高く聳えている。
ここから市街地方面を望むと、右手には「内城」、正面には「松尾城」が見える。
このまま橋を渡っていくと突き当たりは「志布志小学校」で、裏山は「内城」である。
小学校は藩政時代の行政執行機関「御仮屋」の跡地に建てられた。
このようなケースは、明治初期に学制が布かれ、急ごしらえの「小学」が次々に設置される際に、鹿児島ではかなり普遍的に見られた現象で、さほど珍しいことではない。
小学校から、川の上流をめざすと、すぐに道路沿いに鎮座するのが「若宮神社」で、祭神は「持統天皇」。
由来はめっぽう古く、和銅年間の建立というからもし本当なら1300年の歴史を数えることになる。
同じ志布志市でも安楽地区にある「山宮神社」の祭典のとき、ここを遥拝する神事があったのを思い出す。
若宮神社からほんの500㍍も行くと、急に川幅が狭くなる。
その要衝に架かるのが「小渕橋」で、そこから下流を眺めると、市街地はこの橋の手前で終わっていることが分かる。
クライマックスは「石踊橋」だ。河口からわずか2キロほどに架かるこの橋は、いかにもシンプルであるが、下を流れる水は谷川の透明さがある。
この奥の岡の上に「大性院跡」があると言うが、どこから入っていいか分からなかった。中世に「大慈寺」と並ぶ伽藍があったという場所だ。
ここを過ぎると、道は台地へと向かう。
台地に上がろうかという所、わずかに開けた河谷平野に小さな水田が奥へ奥へとのびていた。前川の下流域では初めてのまとまった田園である。
約1キロで坂之上地区に到達する。標高70㍍のシラス台地だ。
広い道路の左右は見わたす限りの畑作地帯だが、途中の右側の畑に見慣れぬものが植えられていた。
車を停めてしげしげと眺めると、それは「杉の苗」だった。
なおも行くこと2キロ弱、道はいよいよ山合いに入り、しばらく行くと分岐に差し掛かる。
左を行けば前川の上流地帯、右を行けば前川を渡り、山越えして宮崎県串間市に至るルート。
右を行くと、200㍍ほどで「船迫橋」がある。前川では唯一の石造りのアーチ型橋である。
今はもう橋としての役目は終え、山間で静かに余生を過ごしている。
さっきの分岐まで引き返し、左のまっすぐな道に入って行くと、やがて潤ヶ野地区だ。
橋を渡ってたどり着いた集落はいわゆる「限界集落」なのだろうか、人っ子ひとり目につかない。
だが、小学校は立派な造りで、この地区の子供教育への思い入れが分かろうというものである。
学校からさらに上にあがると、畑の真ん中に校舎のようなものがあった。
近づいてよくよく見ると、玄関口に「潤ヶ野公民館」という看板が掛かっていた。
植え込みの前に石碑があったので、読んでみると昭和33年に建設されたとある。古い話 だ。
ところが面白いことに、同じ石碑に俳句が刻み込まれていた。その文面は
村づくり 笠祇の里で 話し合い
レトロな建物といい、この俳句といい、郷愁を覚えざるを得な
かった。
(注)宝満寺・・・廃仏毀釈でつぶされたが、新しい観音堂(左)などが新築されている。右は彫り込まれた神像
などのある海蝕凝灰岩の崖。
(前川流域散策―その一 終り)
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