あるアイドルの死
5月の連休明けに鹿児島は種子島出身のアイドル「上原美優」(うえはら・みゆ=本名・藤崎睦美)が自死した。享年24歳という若さで・・・。
ここ1、2年バラエティ番組でよく目にしたことがあったが、種子島の出身ということと10人兄弟の貧困家庭の育ちということで気になる存在ではあった。
自死の第一報をインターネットのヤフーニュースで知った時に、真っ先に頭に浮かんだのは「やっと貧乏から抜け出しかかり、このままアイドルを続けていれば裕福になれただろうに、なぜ?」だった。
インターネットなどで調べていくと2年前に自著『10人兄弟貧乏アイドル』を出していることを知った。買おうと思ったが、同じ出版社が6月に文庫本化して緊急出版するとあったので予約を入れて待つことにした。
1週間前に本が届きようやく読むことができた。
たしかに10人兄弟(4男6女)の末っ子である。ただし、長子の兄は一人だけ腹違いであるらしい。28歳も離れているので、誰かの結婚式にやって来た時に初めて対面し、その後も1度しか会っていないそうだ。
中学校を卒業するとみな島を離れて自活するのが「家訓」だったとかで、高校に行きたかったら働きながら行くというのが定番になっており、上原もそうしかかったが挫折し中退している。中学校時代から生意気だということで先輩に眼を付けられ、かなりのいじめにあっているからだ。
その遠因をつくったのが家庭のありようで、特に母親には激しく当り散らしていた。
「なんで私なんか生んだんだ!」―とは、親に大きく反発する子供の、親への<殺し文句>だが、上原もまさにそうだった。
小中学校の同級生の家庭とは母親の存在感からしてえらく見劣りがしたようで、そんなことが上原を苛立たせたようである。
それでも随所に「母親を独占したい」という気持ちが書かれていて、母親への嫌悪と愛着が同時に存在していたことが分かる。
一般的に言って、母親の存在感が薄いと子供の情緒は不安定になりがちである。母親は子供にとって養分を吸収する「土壌」のような存在で、土壌が安定していて豊かであれば子供は十分に根を張ることができる。そうすれば幹(心)も枝も葉もすべてをのびのびと伸ばすことができ、いろいろな体験(学校・社会)も成長の糧になっていく。
ところが上原にはそれが希薄だった。自分にとって母親が希薄であり、家族関係も希薄だった(知らないところから3番目の兄が現れたり、中学校を卒業するとみんなバラバラになって行った)。上原は生れ落ちてからそんな寂しさを何度も味わっていた。
アイドルになるという希望も、「テレビの前ではいつも喧嘩したりしている兄弟みんなの心が一つになっているから、自分がアイドルになってテレビに出たら、家族全員が一つになれる」からで、有名になることの誇らしさを味わいたいからではなかったようだ。
高校中退後は一時暴走族に属し不良との交友があり、その頃、車に無理やり乗せられて強姦されてもいる。これには大きく傷ついただろう。
先に東京に出ていた姉からも慫慂されてあるタレント事務所へ所属したが、兄の保証人問題で借金を返す協力をさせられたりして一時事務所を辞め、恋をし失恋をし、その後復帰した時に赤裸々に生い立ちを話したところ、その路線で売り出すことになり、3年ほど前に本格的に芸能界デビューを果たした。
その後の活躍はかなりのもので、先の本も出版し「貧乏育ちで野育ちだが、可憐なアイドル」として受けて来たその矢先の自死だったものだから驚かされた。
1年前に母親を亡くしたことが上原の心に大きく影を落とした。精神的に不安定になり睡眠薬も常用していたようだ。一時はあれほど毛嫌いしていた母親の存在感は、やはり上原にとっては大きいものだったのだ。いや大きいからこそ反発も大きかったのだろう。
最後のほうで、上原はこう書いている。
「母ちゃんを隠したいって思っていた時期があった。自分の母ちゃんだって言いたくなかった。
でも今は、自信を持ってみんなに見せたい。これが私を生んでくれた母ちゃんだって。」
また、<おわりに>では、
「今まで、私はたくさんの人を傷つけ、大切な人を失いました。自分もたくさん傷を負ってきました。その「傷」は今も消えないで残っています。その「傷」を、自分の中だけで隠して生きようと思ってきましたが、それは体験してきた自分の「人生」を否定してしまうことだと気づきました。
自分の「人生」に自信を持って、堂々と出していきたい、と思えるようになったんです。・・・」
と書いている。
だったら自死はないだろう、と思いたいが、自分のうちにある弱々しい根も幹も枝も葉も、芸能界のようなギラギラした世界には不向きと感じたのかもしれない。
本当は、もう一度、慕わしい母親と子供時代をやり直したかったのではないだろうか?
その母親はこの世から去ってしまった、自分を置きざりにして。上原はまたあの原体験の寂寥感に襲われたに違いない。
母親の存在感が子供にとっていかに大きいものかを、上原美優の死は訴えかけている。
合掌
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