永遠のマドンナはリリィか、それとも・・・(寅さんシリーズ特別編)
去年の10月だったか、寅さんシリーズ「男はつらいよ」をBSジャパンで48作全部を放映するということで、毎週土曜日夕方を楽しみに観ていたが、先週の土曜日に最後の48作目「寅次郎ハイビスカスの花」で終わったかと思ったら、今日、「寅次郎ハイビスカスの花・特別編」が放映された。 これは何作目かは忘れたが、マドンナ役二度目の地方回りのクラブ歌手・浅丘ルリ子が沖縄に行った時に身体を壊し、とある病院に入院した際に寅次郎が沖縄まで出向き、親身の世話をする―という内容のもので、二人がしばらく沖縄の同じ民家に厄介になるという物語である。
だが、この映画には導入部があり、寅さんの甥の満男が「20年前の出来事を回顧する」という設定になっている。
沖縄の病院で、まるで夫婦のようにリリィに親身の世話をする寅次郎。
同じ病室の患者たちとも打ち解けて笑わせる寅次郎。主題歌を渥美清でなく八代亜紀が唄っていたが、これは寅さんこと渥美清がこの特別編を製作した時にはすでに死んでいたことを間接的に表現したものだろう。
沖縄の民家で、「あたしも身を固めたいわ」とそれとなく寅さんへのラブコールをするリリィに対して、「所帯を持つという柄じゃないよ」とまたしても引いてしまう寅次郎。
このあと「あんたは女の気持ちが分からない!」とリリィにたしなめられるが、やはり薄らとぼけてしまう寅次郎。 沖縄では喧嘩別れをして離れ離れになるが、いつしか「とらや」に現れるリリィ。このとき寅次郎は「お前と所帯でも持つかなあ」と言ってしまうが、言ったあとにはっと気づき、すぐに前言を翻す。
再びリリィは帰って行くが、寅次郎と妹のさくらが柴又駅まで見送る。リリィを乗せた電車のドアが閉じかかると、寅次郎は「幸せになれよ」とリリィに最後の言葉を掛ける。
結局、寅次郎とリリィの恋は成就しないで終わる。 寅さんとリリィの沖縄での恋が終わって20年後に、満男が回顧しつつ柴又の帝釈天通りを歩いて行くところで「ハイビスカスの花・特別編」は大団円を迎えた。
寅次郎の恋はすべて成就しないが、ただひとりリリィ(浅丘ルリ子)とは所帯を持つ寸前まで行った。しかも浅丘ルリ子のマドンナ役は三回あった。もし寅次郎が結婚をするとしたらリリィしかいないだろうとの余韻を残しながら、寅さんシリーズは終わった。
これでいいのかもしれない。
しかし本当のマドンナは実は妹さくらだったのではーと考えもする。幼い頃に母に捨てられたトラウマを持つ寅さんは、腹違いだが妹のさくらこそマドンナと思っていた節がある。
43作目だったか、寅さんが柴又に帰って来て再び旅に出る際に、さくらに向かって「お前の顔も見たし、さて稼ぎに行くとするか」というようなセリフを吐いていた。
さくらは妹だが、そこに自分を常に肯定的に受け入れてくれる母親的な存在感を見出していたのである。
古来の伝統に「おなり神」という観念があり、「おなり」とは姉妹のことで、兄弟にとってはやることなすことを肯定的に祈りをもって後押しや見守りをしてくれる有り難い存在であった。
さくらは寅さんにとってまさに「おなり神」そのものであった。さくらこそ「永遠のマドンナ」なのではないだろうか。
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