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安倍首相の米議会での演説

 安倍首相が訪米し、アメリカ議会の両院合同の集会で、演説をした。今から57年前の1957年に、祖父にあたる岸信介首相も演説したそうだが、あの時は上院議員だけの集まりで演説したのだが、今回のように両院合同でというのは日米関係史上初のことだという。

 今朝、というより昨日の夜中(日本時間午前零時)に行われた演説は、多くは文書を読み上げる形だったが、安倍首相の発音は明瞭で、議会人にも聞き取り易かったと思う。

 しかし演説の内容は「アメリカへのお追従・おべんちゃら」の域は超えず、残念なものであった。途中でキャロライン・ケネディ駐日大使をヨイショしたり、Cimg3209 (安倍首相夫人昭恵さんの隣りのケネディ駐日大使。突然のヨイショに驚いた様子。画像はNHK総合テレビから)Cimg3214 硫黄島の戦いで最後まで米軍に投降せず、「フォックスと呼ばれた男」(栗林司令官)の孫と、米軍硫黄島攻撃部隊の生き残りの元軍人との和解の握手を演出したり、なかなか見せ場を作っていた。

 学生時代に訪米したことのある首相は、日本人なら誰しも感じたアメリカの豊かさへの驚きと「民主主義」を学んだと言ったが、しかしその当時のアメリカは黒人への差別が当然視されており、そのことについて安倍首相は「黒人への人権的配慮はいまだしの感があった」と率直に言うべきであったのだ。

 それがオバマ大統領がわざわざ前日に安倍首相をリンカーン記念堂に案内したことに対する礼儀であったと思う。

 なぜなら前日の会談の後に両首脳が記者会見に臨んだ時、ちょうどつい最近起きた黒人窃盗容疑者に対する白人警官の過剰防衛による殺害についてオバマが記者から質問を受けた時に、オバマは苦々しい顔で実に会見時間1時間の4分の1をその問題に当てたことでも分かる。

 多くの日本人は白人びいきだから、そのことは無視するのだが、黒人(白人とのハーフ)であるオバマはそれが大きな問題だと考えているのである。だからせっかく奴隷解放の父リンカーン記念堂に行きながら、安倍首相の「黒人奴隷解放」にも「黒人への人種差別問題」にも触れない会見における答弁にはいたく失望したに違いない。Cimg3221 アメリカは今でこそ黒人をはじめ有色人種への差別を薄め、「自由、民主、法の支配」が国家の国是として機能しているが、日本がアメリカに敗れ降伏した時点では黒人の公民権もなかったし、当然職業選択の自由もなかったのである。

 リンカーンは「人民の、人民による、人民のための国家を」と言ったが、実は戦後も1970年頃までのアメリカは「白人の、白人による、白人のためのアメリカ」だったのである。したがって戦後日本は上記の「自由、民主、法の支配」をアメリカから学んだとは言っても、「白人だけの」という限定付きの自由、民主、法の支配に過ぎなかった。これが本当の「歴史認識」というものである。

 歴史認識ついでに云えば、なぜ日本が欧米と事を構えることになったかという「歴史認識」が無ければ、太平洋戦争の真意は解らないのだ。日本ばかりが「歴史認識を知らない、侵略した周辺国家に謝罪していない」と言われる筋合いはなく、まずは欧米こそがそれぞれの植民地侵略をしたアジア・アフリカの国々に謝罪をしなければならないのである。

 戦勝国英米仏蘭は「勝てば官軍」を決め込んで頬かむりしているが、彼らこそ「歴史認識」を知らない(都合が悪いから無視している)のだ。

 アメリカでは近年よく報道される警察官による「黒人容疑者への暴行・殺害」をはじめとして、拳銃による殺人は年間8000人ほどもある国で、言うならば人殺しが日常的に行われているのであり、したがって他国民、とくに宗教の違うイスラムなどへの殺害に対してはさしたる罪の意識は感じていない。(敗戦間近の日本へのホロコーストに匹敵する一般市民無差別爆撃もこれに近い。)

 安倍首相はこんな国とタッグを組んでこれから堂々と米軍の指揮下に従うつもりらしいが、冗談じゃない。

 中国の脅威というが、そもそも今の中共をのさばらせた原因は1971年のキッシンジャーの「忍者外交」(当時の大統領はニクソン)による中共承認で、その挙句、台湾を国連から追放し、こともあろうに「自由、民主、法による支配」にもっとも遠い(現在ですら無いに等しい)中共を国連安全保障常任理事国のポストを与えてしまったのは他ならぬアメリカなのである。

 身勝手なものだ。その中国が威勢を駆ってのさばって来た(軍事力もだが、対米貿易の超黒字があり、それをアメリカ国債を買わせて何とかドルの下落をしのいでいる状況)ので、日本を一層取り込んで中国を抑えに掛かろうというのがアメリカの魂胆である。

 万が一、米国が中国と事を構えることがあったら、日本も応分の出兵をーということなのだ。ともに対米貿易大黒字で米国債を大量に保有している日中が共同戦線を張ったりしないように、日中間の隔離を図っているという構図が見て取れる。

 なぜ首相はここまでおべんちゃらを言ってアメリカの歓心を買おうとするのか。ひとこと「これで日米同盟、日米の絆はより一層深まるが、そろそろ国連憲章における敵国条項を廃止してもらいたい」とどうして言えないのだろうか。

 Cimg3228 ここまで言うとは追従も度が過ぎる。欧米に学んだとはいえ、日本には日本の行き方があり、これまでもそうして来たし、これからもそうする―と言うべし。


TPPに関して「農業の大胆な改革をする」と言ったが、これは農協から金融部門を独立させようということらしい。しかしそんなことより日本には2000年来米作りをしてきた歴史と伝統があり、これは日本としては死守しなければならない―と言うべきであった。

 「2000年の歴史と伝統」などと言えば、歴史の浅いアメリカ人など震え上がる(良い意味で)に違いないのだ。むしろそう言い切った方がアメリカ人には効くはずである。外務省などの妙なアメリカ通が邪魔をしているのだろう。残念なことだ。

 安倍首相の演説でただ一つだけ良いと思ったのは「中国も韓国も台湾も戦後の日本の経済援助で発展した」と言い切ったことである。これは確かにその通りで、大いに是としたい。

 総じて100点満点中の35点というところか。言語明瞭だが、中身は戦後の日本人が得意とするアメリカへのおべんちゃら演説であった。オバマ大統領はリンカーン記念堂を案内した真意が伝わらず、残念だったろう。

(訂正:最初の段落で、祖父の岸首相が1957年に行ったという米議会演説は、上院だけとしましたが、上院とは別に下院でも行ったそうです。今朝の「関口宏モーニング」において知りました。お詫びして訂正します。)

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