ホセ・ムヒカ
「世界一貧乏な大統領」として一躍有名になった前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカが来日した。
この人が有名になったのは大統領時代に国連で行った演説がインターネット動画で世界に発信されたことによる(画像はNHK朝8時のニュースから)。 その中でムヒカは「貧乏とは所有が少ないことではなく―
無限の欲望のために、いくら所有しても満足しないことだ」と熱弁をふるった。
日本語(というよりか漢字だが)で「知足」(チソク=足るを知る)ということであり、彼が単なる口舌の徒でないのは、大統領任期中も公邸には住まず現在住んでる家から通っていたこと、愛車のフォルクスワーゲンは1987年製のもので時価は30万円くらいなもの、そして何よりも大統領としての報酬のほとんどを寄付や公益に使ったことなどで分かる。
世間の有名人にありがちな、言っていることは結構だが実質が伴わないのと大いに違う。
一時流行した「清貧の思想」に近いが、彼の場合は「思想」ではなく、文字通り「清貧」を「知足」に基づいて実行していることだ。 国の指導者は国民と同じレベルの生活をすべきだ――とも言っている。
ウルグアイは農業国で、日本本土の半分ほどの国の面積のうち7~8割は「パンパス」と呼ばれる大草原が占め、牧畜が非常に盛んである。人口が300万程度しかないので農産物の価格にもよるが、おおむね農業収入で国民所得は悪くはない。
(※この豊かさの故か、200年も前からスペインを嚆矢としてポルトガルやイタリア、イギリス系移民がやって来て原住民であったモンゴロイドは駆逐されてしまった。
この人は最初のスペイン系らしいが、隣りのアルゼンチンやチリなどとともに西欧系の移民で成り立ったのが南米には多い。東洋のもともとあった諸国が主にイギリスの植民地主義的遠隔支配によって抑え込まれたのとは一線を画している。) 昨日来日してすぐの記者会見では「日本をはじめとする先進諸国は、多くの富を所有し科学技術も蓄積されているが――
国民は果たして幸せに生きているのだろうか」、と疑問を投げかけている。
特にこれからの時代を背負っていく若者に対して大人は、「これまで犯してきた数々の過ちを繰り返してはならず、エゴを中心とした文化ではない公正な文化を確保していかなければならない」――おおむねこのように述べた。
経済最優先の時代はもうこのくらいにして、「国民の幸福を妨げない程度の水準を保てればいい。幸福感は文化でこそ得られるのではないか」、氏はこう訴えたいように思われる。
文化といえば、ウルグアイは「タンゴ」の名曲「ラ・クンパルシータ」を生んだ国で、アルゼンチンとともに南米のラテン文化を支えている国だ。その音楽には情熱がほとばしるが、間奏、つまり「間(ま)」の存在が大きいのも音楽の特徴である。
ムヒカ氏にはぜひ「本来の日本の文化、すなわち貧に甘んじる文化」の状況を堪能していってもらいたい。「静謐」と「間」の多い「少し足らないくらいでちょうどよい文化」は、ラテン文化からしたら間抜けに見えるかもしれないが、心はむしろ満たされるはずだ。
(※清貧にしてはちょっと太め過ぎないか、と危惧するが、あちらは牛肉の大生産地であり、大消費地でもあるから、国民一般もそうなのかもしれない。日本の風土とは大いに違うのだろう。だが言っていることは正しいし、世界共通の考えだと思う。)
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