安楽川流域散策(その二)

山宮神社のある宮地集落で「田ノ浦一番地」というのがある、と聞いて行ってみた。0815anrakugawa_023_2

 何のことはない、田ノ浦入り口の大越橋まで引き返し、橋を渡ってすぐ左手、川沿いの田に下りる道の途中にあった。

 教育委員会の案内標柱が立ち、そこには「田ノ浦一番地 水神様屋敷跡」と書いてある。下の田んぼで肥料をまく準備をしていた人に聞くと「たしかにここに水神様が祭ってあった」と言う。

 おそらく田ノ浦地区で初めて田を拓いて米を作った人たちが、いの一番に祭ったのだろう。0815anrakugawa_015_2

 ゆかしき時代の、ゆかしき人々が偲ばれる伝承だ。

 再び上流に向かう。さっきのふるさと交流館を左に見、田ノ浦小学校を左に見して行くと、川がだいぶ近づいてくる。川床はシラスの中に混じる溶結凝灰岩で、水流で侵食された痕が手に取るように分かる清流である。

 0815anrakugawa_011_2 水遊びにはもってこいの流れだが、誰も遊んでいないのはもったいない。

 花房峡という名勝地を過ぎてなおも行くと、右手に「滝の入り口」という案内板があったので、車を停めて下りて行く。

 かなりの急坂を下りること5分。滝らしき水音が聞こえてきた。見ると右手は確かに滝だが、左手の上流は河川プールのように穏やかな水が湛えられている。

 井堰(いぜき)が造られていた。もちろん田んぼに水を引くためのものだ。川を仕切るコンクリートの幅1メートルほどの割れ目から、0815anrakugawa_012_2水が勢いよく流れ落ちていく。

 比高にして5㍍くらいしかないが、確かに紛れもなく滝である。川床の溶結凝灰岩が水によってえぐられた痕がごつごつとし、水との長き戦いの結果を示す。

 こんな景勝の地に人工物なんて――と言われそうだが、山間地に住む人の米への情熱(米作りへの本能的熱意)を知れば、そういう人でも口をつぐむだろう。0815anrakugawa_010_2

 滝を見終わってもとの道まで上がり、少し行くとT字路があり、右折する。すると間もなくまたT字路があるからそこも右折する。左折すると道は大淀川の源流部を通って都城市に下りて行く。

 ここは高岡口といい、田ノ浦から7キロほどの台地(標高300m弱)で、写真の真ん中のガソリンスタンドの右手に流れる水は大淀川から日向灘へ、左手へ流れると安楽川から志布志湾に入るという分水嶺である。 0815anrakugawa_009_2

 高岡口からはいよいよ源流部らしく道は蛇行を繰り返しながら上って行く。

 高岡口は旧末吉町(現・曽於市末吉町)だが、すぐに隣県の都城市域に入る。町名は安久町だ。

 0815anrakugawa_008_2 途中、「御所谷橋」を渡るが、何やら由来がありそうだ。たぶん平家の落人伝説だろう。落人の中の高貴な人が住み着いたのかもしれない。

 高岡口から5キロに最奥の「尾平野集落」がある。

 こんな山奥に「平野」とはいかに?と感じたが「尾」が「小」なら「小平野」で当地の状況を言い表す地名だ。だが「尾」は「小」ではない。とするとやはり「平家」の「平」から来た地名ではないか?

0815anrakugawa_005_3 「御所谷」からすっかり平家の落人モードに入ってしまったが、宮崎、鹿児島は平家の落人の極めて多いところとして著名であることからして、可能性は高いだろう。今度、都城の歴史を参照したいものだ。

 平家は水軍・水運に重きを置いていたのだが、余りに都ぶりに染まりすぎて惰弱に成り果てた。その結果、海戦は不得手なはずの源氏に敗れる始末となった。

 それでも多くの落人が九州に逃れ得たのは、やはり水運によるネットワークのおかげだろう。上陸後もそれが無かったならば、こんな山奥にたどり着く前にやられていたに違いない。

 都を捨て、栄誉を捨て、その代わりクワとカマを手に黙々と開墾に励んだ平家の公達がいたかもしれない。最奥の棚田は、今、出穂期を迎え、いっせいに薄黄色の穂を伸ばす準備をしている。800年余り前にもこんな平和な風景があったのだろうか・・・。0815anrakugawa_007_2

  マップ(志布志市田ノ浦・曽於市末吉町高岡口・都城市安久町)

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安楽川流域散策(その一)

 0815anrakugawa_041_3 宮崎県都城市の東に広がる鬼塚山塊を源流域とする安楽川は全長30キロ足らずの小河川で、河口は大崎町の菱田川と志布志市中心街を流れる前川のちょうど中間点に位置する。

写した場所は、河口から300メートルくらい上流の、旧国鉄大隅線の鉄橋の上だが、白波立つ河口のはるか向こうには、内之浦町(現在は肝付町)の津代半島が太平洋に突き出ているのが見て取れる。

 津代半島の付け根の高台には、文部科学省の内之浦ロケット基地があるので有名だ。0815anrakugawa_043

 上流方向に目を転じると国道220号線に架かる「安楽大橋」が見える。

 安楽大橋から上流へさかのぼること2.5キロに架かる「平城(なら)橋」までが、安楽川下流域の穀倉地帯で、橋から右手の台地を登りきると安楽小学校があり、左折して300メートルも行くと「山宮神社」に着く。0815anrakugawa_038

この山宮神社には「天智天皇」が祭られているが、その天智天皇は実は志布志にやって来て、安楽川の上流にある「田ノ浦地区」の名峰「御在所岳(530m)」に葬られているとの伝承がある。

 境内横から国指定の天然記念物「大楠」を写したが、手前の「阿吽神官坐像」のすぐ後ろに、「茅ノ輪くぐり」の茅ノ輪がまだしつらえてあったのが印象的だった。0815anrakugawa_036

 山宮神社からやや北に向かい最初の路地を左折すると、道は下りになる。500㍍余りで左に駐車場を見る。

 「安楽城跡」の説明板が建っている。

それによると、築いたのは伊佐平氏流の安楽氏で,坂を下りきって安楽川に架かる「上門(うえかど)橋」から眺めると、菱田川中流にある「蓬原(ふつはら)城」に似て、川を背にして築城されているのが分かる。0815anrakugawa_034

 蓬原城が伴姓肝付氏流の「救仁郷(くにごう)氏」のものであったことを勘案すると、ここを築城した安楽氏も実は肝付氏流の安楽氏ではないかと思われる。

 安楽氏は肝付氏初代兼俊(かねとし)の二番目の弟・兼貞(かねさだ)の開いた支流で、救仁郷氏より一世代前の古い由緒を持つ(救仁郷氏は2代兼経の弟・兼綱が始祖)。0815anrakugawa_030

上門橋よりさらに1キロあまり上流の「大迫橋」は志布志から曽於郡大隅町岩川からの道と、曽於郡大崎町野方からの道が交わる交通の要衝で、交通量が多い。ここまで、河口から約6キロである。

 川はここから谷沿いへと入って行く。

 さらに4キロ上流に行くと「柳橋」で、清流にしか育たないという南方系の植物0815anrakugawa_029 「カワゴロモ」が自生しているという。いわゆる「水中花」で、水の中で花を開き受精もするという面白い花だ。志布志市を流れるもう一つの河川「前川」にも生息している、と説明板にあった。

 柳橋からは道を逆戻りに南下し、次の「樽橋」を渡ると道は安楽川の右岸(西側)台地に上っていく。

 川久保・井久保集落の高台の畑地帯で、茶畑や牧草畑の西向こうに霧岳(408m)宮田岳(520m)などが望まれるが、何と言っても美しいのは正面に0815anrakugawa_025見える「御在所岳(530m)」だ。

 先にも触れたように、ここに天智天皇が葬られ(山宮)、それがいつか麓の現「田ノ浦山宮神社」が遥拝所(里宮)として祭られ、さらにおそらく同じ川沿いということで、下流の安楽山宮神社にも分霊(分社)がなされたのではないだろうか。0815anrakugawa_016_2

そのあたりの詮索は後にして、道は台地を下り田ノ浦地区に入る。

 「大越橋」で安楽川を左岸に渡り、左折すると間もなく左手に「ふるさと交流館」という表示を見る。かなり広い駐車場の向こうにぽつんと和風の建物がたつ。あれが交流館だが、あいにく休館日らしく、入れないようになっていた。

0815anrakugawa_017_3    交流館のすぐ上から、田ノ浦山宮神社への道しるべに従い降りていくと安楽川の清流に架かる「高橋」だ。

 凝灰岩をくりぬいた淀みの上には、用水路の太い鉄管の橋も架かる。上流から引いた用水をこの田ノ浦地区の田んぼへ配水するための水道管だが、残念ながら鉄管の向こうの林の中にある山宮神社にとっては邪魔な存在だ。

 できれば今写真を撮るのに居る高橋と合体させて、山宮の聖域を侵さぬような橋を造作してもらいたいものだ(事業費のないのは分かっているが・・・)。0815anrakugawa_018

高橋を渡ると、宮地といい、いかにも山宮があるのにふさわしい名の集落があり、その奥まったところに山宮神社はある。

 花崗岩製の鳥居の脇には、昭和60年ごろ復活したという伝承の踊りを記念した手水鉢などがあり、田ノ浦地区の神社への思い入れが伝わってくる。0815anrakugawa_022

 

 境内はさほど広いとは言えず、また拝殿も特段に風趣があるというわけではないが、その前に居座る「阿吽神官坐像」は人の背の高さを超える雄偉な作りで、なかなかのものである。

 下流の安楽山宮神社にもほぼ同じものがあるが、ここのほうがいかめしいように感じられる。

 田ノ浦地区は安楽川河口から17~8キロのところに位置する。

    マップ(志布志市および旧曽於郡松山町)

 

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